第136章 どうしてまたあの男のことを思い出したのか?

長谷川明子は、扉の向こうへ消えていく娘の背中を見つめたまま、目の奥の不安を濃くしていった。

母親というものは、娘の嘘をごまかしきれない。

「インスピレーションが湧かない」なんて言葉は、ただの取り繕いだと分かってしまう。

栞は明らかに何かを抱えている。しかも、それを自分の中で消化できないまま、ここ最近どんどん調子を崩している。

……分かったところで、どうすればいい?

娘は話す気がない。ここで問い詰めれば、余計に追い詰めるだけだ。

それなら、聞こえないふりをしてやったほうがいい。安心して息をつけるように。

ただ願うのは、栞が少しでも早く、この行き止まりから抜け出してくれること――。...

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